森美術館って知っていますか?

東京ミッドタウンの高層ビル「六本木ヒルズ」。

かつてITバブルの華々しかったころは、ヒルズ族と呼ばれる企業家たちのあこがれの場所でした。その印象が強すぎるせいか、一般人には無縁の場所に思えますが、実際に行ってみると、若いカップル、外国人の観光客、そして仕事帰りの会社員たちが集まり、続々とビルの中に入っていくではありませんか!そして、ゆったりとしたペースで、美術品を鑑賞しているのです。

ここは、六本木ヒルズ森タワーの52階と53階にある森美術館。現代アート作家の無名の作品で年間180万人の集客に成功している開業8年目の異色の美術館です。

ちなみに上野の国立西洋美術館の入場者は2008年度で123万5000人です。

このビルの建設計画が始まった1990年頃は、まさにバブル景気の真っ最中で、世界中の高価な名画が日本に集まってきました。

当初は、モネやピカソ等、世界的にも有名な画家の作品を展示しょうと計画していましたが、何度も議論を重ねた結果、現代アートに絞ったのです。

その決断には、森ビル社長・森実氏の意見が大きく反映されました。

実は六本木周辺には、すでに美術館が多くありました。

サントリー美術館、国立新美術館・・・等々、新旧織り交ぜた美術館の激戦地区です。「他と同じ事をやってもかなわない。それも52階、53階の高層階で実施すれば、なおさら不利になる」と森氏は考えました。

一般的に、美術館の収入はチケットの販売額によって決まります。誰もが「写真やテレビで見た事のある作品をこの目で見たい」と思う。だから美術館側としては、有名な作品を展示しようとします。まだ知名度の低い現代美術作家では、集客がとても難しいと考えるのは当然の事でした。

 ところが、2003年に森美術館がオープンしたとき、対象とした客層は「美術への関心が低い一般人」。今までの美術館に来る美術専門家やアートファンは外しました。

地上53階に留まっていたのでは、集客できないので、「子供ツアー」等の六本木ヒルズの近隣住民向けのイベントを実施し、広告も大々的におこないました。また、巨大な蜘蛛のオブジェを配置して現代アートを誇張しました。壁や柱、エレベーター、エスカレター等あらゆるところに作品の写真を大きく貼り付けて、現在展示している作品を宣伝しました。

さらに、“口コミ”を広げるため、日本交通のタクシー運転手を招待。職業や年齢、趣味の異なる人を接客する運転手を語り部にしようと試みました。「お客さん。この前生まれて初めて美術館てなもんを見に行きましてね・・・」こんな切り口でお客との会話が弾んだのでしょうか?